Vol. XII, No. 18 平成十八年二月十一日 特別全文掲載

靖国参拝で小泉首相は胡錦濤に敗退した。「剣士小泉」は瞬発的な衝動において強い。しかし外交は意欲の他に頭脳と理論が不可欠だ。外務省のブレーンを無視しての官邸主導外交は惨めな結末になった。自民党の野田毅に対して唐家セン元外相は「小泉首相にもう期待はしていない」と語った。相手にしないというのだ。この傲慢な態度の背後には、アメリカの覇権放棄に伴う米中接近がある。日本は危ない。

自民党の野田毅が訪中して唐家セン元外相と2月8日に会談した。唐家センは野田に対して「小泉首相にもう期待はしていない。在任中に(両国関係が)好転する可能性は非常に小さい」「中国はデッドラインを明確にする」と語った。[1] 「デッドライン」の意味は判然としないが、かなり高飛車で傲慢だった。

中国を硬化させたのは、アメリカの敗退に伴う米中接近である。野田訪中の一カ月前にアメリカのゼーリック国務副長官が訪中した。以下は朝日。「ゼーリック米国務副長官は24日、北京の釣魚台迎賓館で温家宝(ウェンチアパオ)首相、戴秉国(タイピンクオ)外務次官らと相次いで会談した。

「今回で3度目となる戴次官との米中高官協議では、北朝鮮の核問題をめぐる6者協議に加え、中国が慎重な姿勢を崩していないイラン核問題の国連安全保障理事会への付託問題についても意見を交わした。

「ゼーリック氏は記者会見でイランの核問題について『国連安保理常任理事国など国際社会のパートナーたちと、イランに核開発を思いとどまるように働きかけている』などと語り、中国側に理解と同調を求める立場を示した。」[2]

アメ通16、17号 で説明したように、アメリカはイランの核抜きについて、中国の援助に依存している。ブッシュ政権は、北朝鮮の核抜きについて中国の仲介に依存する政策を03年に採択した。イラン、北朝鮮を使って中国はアメリカ(イスラエル)を脅しているのだ。

これはアメリカにとって死活問題であり、靖国より優先順位が高い。唐家センはそれを知っての上で、野田を軽くあしらったのである。これから米国政府は靖国問題で中国寄りの姿勢をとるであろう。

これを日本の圧力で逆転させることは不可能に近い。日本には駆け引きのカードがゼロだからだ。保護国の立場とはそういうものだ。

靖国参拝の真相を報じたのは本誌だけである。[3] この真相に基づいて、私は、総理単独の参拝も遅かれ早かれ困難になると判断した。米国政府が支持できないからである。ブッシュと一緒に参拝することが、靖国参拝の防衛になると私は判断した。

そのために、東条英機総理を日本が率先して分祀すべきだと主張した。私は国立追悼施設には反対だ。追悼施設ができたら靖国神社は衰退して消滅するからだ。しかし東条分祀の私案は強い反対にあって、無視された。

その結果は何か。おそらく国立追悼施設であろう。「いや、安倍晋三総理なら靖国に行く」と思う人が多いかもしれない。だが私は上記の日・米・中関係から判断して、安倍総理も追悼施設に同意せざるを得ないだろうと思う。

戦略構想のない政策では勝てないのだ。「心の問題だ」「なぜ中国が干渉するのかわかりませんねぇ」と言っても駄目なのだ。中国は今や日本よりアメリカにとって大事な国となった可能性があるのだ。

私は08年に民主党のヒラリー・クリントンが大統領になれば、米中接近が起きると予測していた(※)が、それが06年にブッシュによって実施されたのだ。


[1] 「『小泉首相に期待せぬ』中国・唐家セン氏」、朝日、2・9・06。

[2] 「米国務副長官、温・中国首相らと会談・イラン核も話題」、朝日、1・25・06。

[3] 2002年のブッシュ訪日に際して、首相が大統領を参拝に誘ったが、ブッシュが断って、代わりに明治神宮に参拝した。これは米大新聞の特派員から私が手に入れた情報だ。

(※)米中共同覇権構想参照


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